株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2007年8月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第55回
 
今年の全英オープン

なぜか今夏もロンドにいるが、今年の英国は全英オープンを見ても分るように雨年で、集中豪雨と洪水のニュースで特に中部地域が大騒ぎだ。
ところが、初夏に起きた洪水を例に取ると、観測史上初めてという降雨量は、4日間の合計で100mm程だそうで、日本の台風なら1時間で降ってしまう程度の量なのだ。 しかも地形が平坦なために、雨が降ってから洪水が起きるまでの時間差も、日本の数時間に比べて数日間と長い。 このような激しい雨が降らない国で考えられた排水構造を、そのまま日本に導入しても意味が無いことは明らかで、早急に多雨地域に合った排水仕様に改善したいと切に思う。

The Openの話題では、携帯電話の持ち込み禁止、ゲーリープレーヤーが提起したトッププロのドーピング問題、中尺パターや極太グリップ等もあったが、一番びっくりしたのはリンクスコースなのにバックスピンで球が戻るのを見たことだろう。

先に述べた長雨で、グリーンの床砂が緩んでしまったのが原因だが、ウエッジの角溝やボール表面の材質の開発が進んだ事も見逃せない。 最近のツアープロは、角溝の状態を保つため毎月ウエッジを新調し、この風潮はゴルフの伝統やエコロジーの観点からも喜ばしい事ではない。

さて、The Open開催期間のコースがどの位の難易度なのか常々興味があったのだが、面白い切り口が見つかった。 先ずは距離とパーの静的確認だが、今年のカヌースティーは全長が7400ヤード程で、パー71だから、パー72換算すると約7500ヤードになる。 次に動的検証だが、最終日までプレーしたアマチュアは、北アイルランド出身の18歳、ローリー・マッカロイ唯一人で、彼の英国内でのHDCPは+6(凄い!)なのだ。 彼がコースレート(SSS)72の一般のコースを4ラウンドしたら24アンダーになるはずだが、全英では5オーバーだったから、単純に計算すればオープン開催時のコースレートは78.25になる。 コースはパー71だったから、日本人の好きなパー72換算すると79.25にもなるのだ。 更に、今年は球が止るので例年より易しかったそうだ。

纏めると、トッププロが雌雄を決するような舞台は、2007年断面でパー72換算をすると、全長7500ヤード超、コースレート(SSS)80! このような難コースが日本に存在するかという問題はさておき、この条件下でも60台で廻る猛者のハンディキャップ(プロだから在りえない)は、考えるのも恐ろしい。 因みに、今や欧州ツアーの飛ばし屋はドライバーのヘッドスピードが毎秒60mに届きそうで、ボールの初速が毎時300kmを超え、平均飛距離は320ヤードを超えている。 彼らは無風の平坦地で、200ヤードのアプローチショットに6番アイアンを使うそうだ。

昨今の4大メジャー大会をテレビ観戦して思うのだが、一般の倶楽部ゴルファーと、トーナメントプロの技術差が、ここまで開いてしまうと、テレビ観戦者はプロゴルファーに自己投影し難いと思う。 すると、有名プロと同じ用具(ボール、クラブ、サングラス、帽子等)を買うことで、辛うじて彼らとの接点を保とうとするに違いない。 プロは広告塔の役目を担っているから、ますます人目を引く衣装や用具を使う必要に迫られ、今やブランドのロゴだらけでチンドン屋さんも真っ青なイデタチになっている。 悪い事に、それを真似る人達も現れているので、倶楽部ゴルファーの自戒を求めたい。