株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2007年9月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第56回
 
英国の景気

どうせ、何か逃げ道を造るに違いない。
と、踏んでいた英国の禁煙問題は、どうやら本気のようで、着々と市民権を得つつある。 空港や駅、オフィスビル内は無論、ホテル内もバーや客室まで法律を楯に全面禁煙だ。 市中のパブは戸外の席を除いてお客が激減し、路上はタバコのポイ捨て場と化している。
という訳でこの夏の英国は、パブの転売と食事を売り物にしたパブの新装開店が相次ぎ、庶民のささやかな息抜きにも変化の兆しが現れている。

今までは「ビール片手に友人達と何時間もお喋りする」というのが伝統的なパブ利用法で、食べ物は二の次だった。 従来のパブ飯は英国人からも不評で、実際生命の危険を感じるほどに不味く、悔し紛れに「不味い食事を取り締まる法律は無いのか!」と叫びたくなったものだ。

こうした英国の食事事情からか、ゴルフ場でもハーフターンのサンドウィッチ程度の軽食が主流で、ジャケット&タイが必要な社交場としてのダイニングで毎回食事する人はごく限られていた。 午前中のハーフ終了後、半強制的に食堂に連れ込まれる日本と違い、ラウンド後は気楽なスパイクスバーでベッドの精算し、勝利者がビールを振舞うのが普通だったのだ。

「ここ数年間でロンドンの外食産業は劇的に変化し、今や市中レストランの味はパリやローマに匹敵する。」 と英国雑誌は紹介しているが、これは幾ら何でも言い過ぎだ。 味覚の問題は個人の趣向に拠るし、この趣向は幼い時からの食体験が多分に影響するから、味覚だけは一朝一夕には治らないと思う。

確かにここ数年の英国は好景気が続き、オリンピック誘致にも成功したから、あと数年は大丈夫だろうと予測するアナリストが多く、不動産市場は活気づき、財布の紐が緩んだ華やいだ空気を感じる。 しかし足元の税金や公共料金は既に天井近く高いのだ。 バスや地下鉄の初乗り料金は日本円に換算すると千円以上もするから、タダ同然に安いロシアと比べるまでもなく、これ以上の値上げは不可能だ。 また消費税は現在17.5%だが20%にする案を検討中で、既に日本の3.5倍なのだ。

さて、こうした好景気を反映してゴルフ業界も潤っているかというと、残念ながらちょうど踊り場にあるらしい。 新規開発の用地確保が不動産市場の影響を受けて高騰したから、と分析する人もいる。 が、本当の理由は、資金還元サイクルから見て、今後数年間の好景気中に投資回収するのが得策だからだと思う。 逆に言えば、ゴルフ場ビジネスは投資額や固定費が大きい割に回収に時間がかかるから、好景気が続き市場価値が高い所で売り抜けるのが、最も投資効率の良い方法なのだ。 今やゴルフ場を所有する事に特別な価値を見出さない限り、慈善事業ではないビジネスは成り立たず、英国人は味覚音痴でもその種の嗅覚には鋭いから、上手に次の顧客を探してくるらしい。

近年、ロンドンの高級ショッピング街を闊歩するのは、日本人から韓国、中国人へ、更にロシア人やアラブ人女性へとシフトしてきた。 その国の経済状況を如実に表しているだけだが、金持ちになった彼らが次に欲しいものは文化や伝統と相場は決まっていて、英国のゴルフ場は手頃なステータスらしい。 中東の海浜リゾート開発も米国主導で決まったようだし、次の標的は英国本土のゴルフ場のような気がする。 現代はパリのルーブル美術館が、アラブ首長国連邦に支店を出すような時代なのだ。