株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2008年2月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第61回
 
カート道路の新たな可能性

正月休暇に一時帰国し、久々に冬の日本でゴルフをしたので感想をお伝えしたいのだが、その前に小生の体調も書いておかねばなるまい。
20年程前に判ったのだが、小生は脊髄小脳変性症という難病だそうで、50歳を過ぎてから頓によろけ易く、歩くのが億劫になってきた。 しかし未だに、自分のクラブを背負ってプレーする方が好きで、回数は極端に減ったがスペインでもハーフセットを肩に掛けてプレーしている。 15年前のロンドンでは、年間500!ラウンドだったのに、この2年間で十数ラウンドという回数は隔世の感がある。 今回プレーしたのは2箇所とも乗用カートの利用が標準化されたコースだったのだが、自分の年齢と共に同伴者の年齢も上がる訳だから、高齢化が進む日本の現状を突き付けられたようで少し寂しい。

さて、冬場の芝の枯れたコースではフェアウエーよりもラフのほうが打ち易い場合が多く、ハザードレイアウトなどの議論は、全く意味を持たないとお伝えしてきた。 また凍結するグリーンは、床砂の含有水分過多の証拠品で、コア抜き等をして水盤を下げ、透水性を上げる必要がある。 水分が凍る時の体積増加によって芝の根がちぎれ、春先の回復も遅れるからだ。

今回の話題は、今まで散々述べてきた基本的な事でなく、カート道路の新たな可能性に気付いたという話です。

小生のホームコースは元々井上誠一氏のデザインなのだが、後で作ったカート道は氏の設計ではなく、ラフの片側を走る旧来の日本式である。 また、カート道路自体が周りのラフより15cm程低く、樋状なっており、所々に排水枡が設置してあるから、カート道を排水経路にも活用しようと考えられた物であるらしい。

それ自体は素晴しいアイデアなのだが、現状では拙い! まず、カートへの乗り降りが段差に阻まれて危険である。 次に転がり込んだ球が樋状のカート道伝いに延々と運ばれてしまい、運悪く打ち上げのホールなどすぐ近くまで戻ってきてガッカリさせられる。 更に言えば、カート道は片側のラフを走るから、反対側のボールまでは長い距離を往復しなければならないのだ。

この手法は表面排水処理とカート道路という工作物を、用途を踏まえて合理化した労作だと思うが、肝心のプレーに支障があり感心できない。 理想的なカート道設置方法は、プレー方向に向かって段々畑のように低くなってティーから見え難く、打球が道路上に止まり難い事と、路面が周りと同じ反発係数を持つ事だ。 最後の項目は、樋状の基盤の上に透水性の高い資材(小豆石等)を敷き、上に砂を被せれば実現可能で、テニスコートで実績のある砂入り人工芝等が有望だと思う。 また本物の芝も利用可能だろう。

一方、井上誠一氏の設計は優美な曲線に特徴があり、フェアウエーの形は男根、マウンドは女体(病的だと思う)を模しているそうで、片流れの斜面以外はマウンド群の谷間をフェアウエーが蛇行するから、必然的にフェアウエーの中央付近が水道になる事が多い。 俗に言う『酔っ払いの千鳥足型ハロー』だ。 ということは、フェアウエー中央付近のハローに沿って排水施設を設置することが最も効率が良いし、そのルートをカート道路としても使えれば一石二鳥だろうと思う。

フェアウエーを避けてラフ伝いに歩経路をとる日本式が、いつごろ標準化され、又その理由については、定かではないが、ゴルフの原則から考えてみると妙な話なのだ。