株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2008年5月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第64回
 
魚の食べ方とコース管理(日本と世界の違い)

採れたてのマグロをその日の内に食べた読者は少ないと思うのだが、バルセロナでは初夏の庶民の楽しみだ。
しかもスペインでは大トロも赤身も値段は同じで、他の魚と同様に水揚げされた日の夕方7時頃に市場に並ぶから、豪快に食べて思いっきり贅沢した気分になる事も可能だ。

地中海で採れるマグロは、回遊性の大西洋マグロが産卵のために地中海に入り込んだ物なので、アンダルシアでは今でもローマ時代と同じ漁法で幼魚を採って生けすに放ち、太らせてから出荷する畜養が盛んな事はご存知の通りだ。 また、バルセロナでは水温のためかマグロが岸から数qの沿岸を泳ぐので、プレジャーボートで200kgの大物を釣り上げた太公望もいる。 此方のマグロは、血抜きが不十分なのと、鮮度が良すぎる(少し熟成した方が美味い)ので鉄臭く、味が円やかさに欠ける難点もある。

ところで現地のスペイン人達は、最近でこそ日本食の影響を受け、生の魚を食べる事に理解を示すが、こんなに新鮮な魚が手に入るというのに、殆どは火を通して食べる。 醤油という万能調味料がないせいもあるが、本当の理由は生食が危険だからだと思う。 マグロは比較的安全らしいが、イカや鯖や鮭などには必ずといって良いほど寄生虫がおり、運悪く痛みが激しいと救急車で入院する羽目になる。 日本人は食材を生で食べる事に何の疑問も感じていないが、世界的に見ると相当特殊な食文化を持っているのだ。 という認識に欠けていると思う。

さて、日本で当たり前だと考えられているコース管理も、世界的に見ると首を傾げることが多い事は、今までにも色々お伝えしてきたが、今回はバンカーを囲むラフについて考えてみようと思う。

グリーン周りのバンカーは殆どの場合、懲罰的な役割を担っているので構わないが、ティーショットのランディングエリア付近にあるバンカーには一考の余地がある。 知略的な意味合いが強いバンカーの場合は特に、バンカーの位置が次打のベストポジションなのだから尚更だ。

「バンカー傍のフェアウエーからの次打が有利だが、目算が狂って入ってしまえば懲罰を受ける」または「状態が良ければバンカーを意識的に狙う可能性さえ残されている」
という構成が望ましく、バンカーにはフェアウエー側から打球が入り易い状態になっていなければ意味が無い。 日本ではバンカー全周がラフで縁取りされていたり、手前の淵がフェアウエーよりも高かったりして打球が入り難くしてあるが、これは発想自体が全くの逆なのだ。

キーパー側から見れば、「バンカーにフェアウエーから雨水が流れ込んでは困る」という観点から淵を高くし、ラフを回したくもなるだろうが、プレーして面白いゴルフコースを作り管理するのが仕事であって、管理しやすい方法を探すのが仕事ではない! 雨が降る度にバンカー内に水が溜まるのは、排水計画の不備や設備の維持刷新を怠った為だし、シルト分の多い管理手法に問題があったからだ。 もっと根本的な原則から言えば、設計や造成工事や経営者の判断が問題だとは思うが、キーパーの見識も疑われる。

流れ込んできた泥混じりの雨水を速やかに排出する方法など幾らでもあるし、管理の手間は現在より余分に掛かるだろうが、それらをバランスさせるのがキーパーの仕事で、バンカーに雨水を入り難くする努力などナンセンスだ。 魚を生で食べる為に先人たちが苦労して会得した知識を、なぜ勉強しないのだろうか?