株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2008年6月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第65回
 
ゴルフコース管理技術の進歩

欧州では日常生活でも旅行でも、車による移動が多い。
地続きのEU内では、国境を跨ぐ際もパスポートや荷物検査は稀で高速道路の料金所のような感覚だし、高速料金も安い(日本が異様に高い)から、週末には家族と荷物を満載した小型車を良く見かける。 普段あまり運転しない小生も最近は遠出する機会が多く、1日に2回も給油所に立ち寄るような強行軍でも平気だ。 この原因は小生が齢をとって我慢強くなった訳ではなく、車や道路の性能が上がり運転自体が楽になったからだ。 最新の乗用車は、車間距離や車線を自動的に守るシステムを持っており、無茶な割り込みをされない限り法定速度(130km/時)で延々と走り続ける事が可能なのだ。

しかし、『ゴルフも同じで、道具の進歩によりプレー速度は上がり、スコアーも劇的に良くなった!』とは、誰も思うまい。何故だろうか? 良いゴルフコースは必ずしも安直なプレーだけを目的にしていないし、困難に直面し、克服する事こそがゴルフ本来の醍醐味だからだ。 故にゴルフコースは管理技術の進歩を反映する一方で、ゴルファーの飛距離やスピン量といった時代進化に合わせた改良も加える必要がある。 間違っても、開場当時に戻すなどと考えないで欲しい。

もし当時と同じガッティーボールやヒッコリーシャフトでプレーするのなら、オリジナルデザインに戻す意味もあるが、地上戦から空中戦に変貌してしまった現代のゴルフを実感する事になると思う。 当時の道具で150ヤード先の目標付近に球を止めるには、グリーンに直接着弾させる事など論外で、少なくとも上り傾斜の花道を使って手前から転がし上げる算段が必要だ。 つまり、アンジュレーションやマウンドの影響が大きく、打球が着地しても静止するまでは気が抜けないはずだ。 個人的には、200ヤード以上先の目標を直接狙うような現代のゴルフより、道具の性能を落としても傾斜や芝高を勘案しなければならない古典的なゴルフの方が自然を感じるので好みだが、道具頼みの体力勝負が現代的なのだろう。

コースの原設計を過大に評価する本当の理由は『現代の道具で昔の飛距離を基準にしたコースをプレーし、良いスコアーを出したい。』という卑しい願望の裏返しだと思う。 90年前にC.H.アリソン氏は『最近は、暇も技術も若さも無い人達までがゴルフする』と嘆いており、当時からゴルファーは自分の事は棚に上げて寛容なコースや良いスコアーを望む傾向があったのだ。

さて、コース管理が機械化されておらず、主に労働力の観点から粗暴なラフが当たり前だったアリソン氏の時代は別にして、現代では先に述べたようにマウンドや傾斜の価値は薄れてしまったが、逆にグリーンやフェアウエーは無論、ラフの刈高も自由に設定できるという進歩もある。 また現代では100ヤード以内では殆どのプレーヤーがウエッジを使い、ロフトの寝たクラブはラフからショットではクリーンヒットが難く、その影響は上級者ほど大きい。 ということは、現在より球の赤道が隠れる程度のセミラフの範囲を拡大すれば、飛距離の出る(つまりフライヤーになり易い)上級者が苦労し、相対的にシニアや女性ゴルファーが有利になる訳だ。

飛距離制限が効力を発揮していない現状を踏まえると、セミラフの拡大がプレー速度は落とさずに面白いコースにできる、最も安上がりで効果の大きい方策だと思う。
フェアウエーのラインを一度見直すと良いと思う。