株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
ホーム
プロフィール
掲載原稿・講演会
週刊コラム
出版物
連絡先
トップページ
月刊 ゴルフ場セミナー 2008年7月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第66回
 
サッカー <ユーロカップ2008>

サッカーのユーロカップ2008でスペインが優勝し、国中が大騒ぎなので、今回はこの欧州カップの話題です。
今年の欧州カップ決勝戦はオーストリアのウイーンで開催されたが、この大会は昨年の夏から10ヵ月掛けて各地で予選が行われ、六月最後の日曜日が最終戦だったのだ。 欧州は7月からバカンスシーズンなので、その前に決着をつける必要があったらしい。 びっくりしたのは、スペイン対ドイツの決勝戦では国王や両国の首相も観戦し、戦況に一喜一憂していた事で、仮に両国ともサーカーが国技だとしてもスポーツ観戦のために元首が国を空けるなど日本の常識では考え難いからだ。 例えば、中国で行われる柔道のアジア大会に、総理大臣がわざわざ出向いて日本選手の応援をすると思いますか? 個人競技と団体戦という違いはあっても選手は国旗を胸に掲げて戦っている訳で、国家とスポーツ(広い意味での文化)に対する認識が、我々日本人と欧州人では相当違うなあと実感してしまった。

それにしてもスペイン人の歓喜の表現は派手で、小生は準決勝からTV観戦を始めたのだが、得点を挙げる度に町中が(という事は国中が?)地鳴りのようにウォーと雄叫びを上げるのには驚いた。 それに続いてホイッスルだの太鼓だの車のクラクションだの、音が出る物全てが鳴り始め、花火や爆竹も含め数分間は鳴り止まないから、本当に情熱の国は大騒ぎなのだ。 試合が終わっても明け方まで余韻は覚めやらず、奇声や爆音は朝まで断続的に続く。

ところが不思議な事に、こんなに大騒ぎをする国民なのに大酔っ払いは見かけない。 スペイン人は酒の力を借りなくても何時もリラックスしており、逆に言えば緊張する事がない国民なのだそうだ。 その証拠にスペインに凱旋したサッカー選手全員が、観衆に向ってごく普通にスピーチしたのには舌を巻いた。

もう一つ気付いたのは、準決勝に残った4チームの顔ぶれが、ドイツ、トルコ、ロシア、スペインで、ドイツを除くと欧州の周辺諸国が多く、かつて強豪だった英仏伊はどうしたのかという疑問だ。 一説にはイタリアでは近年、サーカー人気が極端に低迷している事が遠因らしい。 一部ファンが先鋭化して粗野で暴力的というイメージを持たれ始め、サッカーファンである事がフーリガンと同義語になりつつあるという。 つまり、現代では一部の心無いファンの存在が、スポーツ自体のイメージまで悪くしてしまうらしく、ゴルフも例外ではないように思う。

また準決勝を見る限りサッカーもウィンブルドン現象が起こり始めているようだ。 自国で創始し発展させたスポーツが周辺国へ波及する事は、文化の流れという意味で世の常だが、自国に文化の担い手が育たず、周辺国ばかりが優勢だとファンは苛立ちを募らせ先鋭化し易くなると思う。 日本のゴルフように世界的な競技者が育ち難く何時までも海外崇拝が続くのも問題だが、歴史的に見て新しい発想や技術は新興勢力が起こす場合が多い事も指摘しておきたい。

ユーロ高(原油高でドル安なだけだ)の影響で、欧州でもドイツなどインフレ率が3%を超える国も出てきた。 元々の欧州通貨統合の目的は、各国が協調してインフレ率を2%に抑える事だったのだから、欧州を含め世界経済が磐石という訳では決してない。 今世紀に入ってから世界中で4千コースも増え、今や3万2千に届く勢いのゴルフの未来のキーワードは、案外日本式ゴルフかもしれない。