株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2008年8月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第67回
 
第137回 The Open 開催

第137回のThe Openがバークデールで開催され、優勝スコアーが久々にオーバーパー(+3)になった。
週刊誌のプレヴュー記事に、天候さえ良ければ15アンダー内外と書いた手前、18打も異なる予想をした事を恥じる一方、弁解もしておきたい。

競技会直前の英国内のゴルフ雑誌の予想も、多分主催者側も1桁アンダーの優勝スコアーを想定していたようだ。 理由は10年前の前回に比べて、出場選手の平均飛距離が10ヤード以上伸びたため155ヤードの距離増は帳消しだが、グリーンの速さや硬さがあまり変わらないので、ボールのスピン性能の進化分を消化しきれず、結果的にホール当り0.1打程スコアーが良くなる。 と、考えられていたためだ。 蓋を開けてみると、強い風の影響でコースは劇的に難易度を増し、事前に決めたティー位置を急遽変更する等の配慮も虚しく、リーダーボードの赤字は消滅してしまった。

強風下のゴルフではコースに対する深い理解と、球を自在に操る技術が求められ、特に低い弾道は必須である。 ショット技術はその道の専門家に委ねるが、現代では短くて重くロフトの立った向かい風専用クラブを使用したくても、契約メーカーとの柵によって標準仕様を強要されているのかもしれないと思う。 スコットランドの倶楽部では、未だに2アイアンは必ずメンバーのキャディーバッグに入っているし、ロフトの違う2本のドライバーを使い分けているシニアも多いからだ。

また、TV観戦していると、最近のプレーヤーの胆力低下なのか勉強不足なのか、状況認識の甘さだけが目に付いて失望した読者もいたと思う。 フルショットの滞空時間は6秒程だから、レイアウト図を吟味すれば、例えば西風が強い時の風の影響など大雑把な情報なら得られるし、天候と自分の技術レベルを勘案してボギーを叩き難いルート選択など当たり前だったのに。 と年老いたゴルファーは思う。 しかも、今回のバークデールは近年のThe Open開催コースの中で最も改造が成功した例で、必然的に多くの攻略ルートが隠されていた。 世界を股に掛けた一流プロに向かって物申すのも妙だが、それが読み解けないような度量ではゴルフ技術の正当な継承者とはいえないと思う。

コース改造の話が出たので補足すると、今回の改修工事の美点は日常的な倶楽部メンバー同士の安全確保と、国際競技を開催できる程の難しさを両立させた事にある。 80年前の開場当時と現代ではドライバーの飛距離が50mも違うから、設計時の仮想プレーラインと現実のルートは大幅にずれているはずだ。 特にドッグレッグしたホール周辺で危険箇所が多くなり、この解決方法はティーを後ろに新設するか、フェアウエーを横に移動させるしかない。 今回の改修ではフェアウエーを25ヤード移動させた箇所もあり鮮烈な手法なのだ。 もしこの問題を放置して事故が起きた場合、訴訟現場では数十年前の距離基準では分が悪く、現代の英国では10年毎の見直しが一般的である。

古典的なリンクスでは、風の影響が少ない低い弾道が好まれるのだが、その裏返しとして砂丘を飛び越える(ブラインド)ショットが冒険心を擽る仕掛けとして認知され、この風潮は第1次世界大戦前後まで英国の伝統だった。 今回の改造は、リンクスコースの抱えるブラインド問題を、歴史遺産としてティーショットに1部残しながら、グリーンを狙う場面では回避した、新たな国際基準である。