株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2008年9月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第68回
 
スペインでの夏休み

まだまだ日中は暑いが日没時間は確実に早くなり、バルセロナも秋の気配を感じる。
スペインでは連続3週間の夏季休暇が普通に容認され、それでなくても仕事がのろいのに、夏は国中の経済活動が完全に止まってしまう。 公共交通機関も間引き運転だし、観光地の宿やレストランも休みの所が多いのだ。 今年は不動産バブルが弾けた上にガゾリンや物価高が追い打ちを掛け、経営破綻も多いのだが、会社更生法を申請する役所まで夏休みなので倒産もできない!という冗談のような事態まで起きている。

さて、小生の夏休みは10日かけてイベリア半島の北半分を回る旅で、中世からの巡礼地サンティアゴ・デ・コンポステーラも面白かったが、バスク地方のビルバオという港町にできたニューヨークのグッゲンハイ美術館分館とその影響力にはびっくりした。 チタン製の巨大なリボンを無造作に丸めたような奇妙な建物は総工費100億円だそうだが、たった100億円(日本のゴルフ場開発費と同程度)で停滞した都市を活気付かせ、建築ラッシュと不動産投資を呼び込み、結果的に都市の主要産業を衰退した重工業から商業と観光産業に脱皮させるきっかけを作ったのだ。 未だ建築も捨てた物じゃないというのが素直な感想だ。

先日、バルセロナの代名詞になっているサグラダ・ファミリアで主任彫刻家を務める外尾悦郎さんが外務大臣賞を受賞され、そのお祝いとして御夫妻(奥様はピアニストの比石妃佐子さん)と夕食をご一緒した。 日本の常識では我々が外尾さんを招待するのが筋だと思うのだが、外尾さんには頑として受け入れてもらえず、逆に御馳走になってしまった。
西欧では誕生日等のお祝いは自分で主催する風習があり、ゴルフでホールインワンを達成した場合も同様である。

期せずしてバルセロナの中心になり未だ建築中の建物は、30年ぶりに登ってみるとすっかり工法が変わり、現在では石組造ではなく鉄筋コンクリートに砂岩をタイルのように貼り付ける工法である。 ガウディーの時代にはRC造は開発されたばかりで実績が無く、設計者自身も建築技術の進歩に夢を託していた部分もあるようだ。 という外尾さんの説明は説得力がある。 この例からも判るように、外から見ると順風満帆に工事が進んでいるように見える歴史遺産も、内部では色々の矛盾を抱えながら我々と同じ時代を過ごしている訳で、関係者其々の熱意と英知を結集しなければ未来は開けないのだ。

先のグッゲンハイム美術館もバルセロナのガウディーの作品群も、建築界の中では異端の部類に属するだろうが、逆の見方をすれば日常的な「庶民のお得感覚」とは無縁な「毅然とした凛々しさ」を演出しやすいように思う。 現実的な利用者は大多数が初めて来る観光客ばかりなのに、孤高であるが故に人を引きつけ、周りにも波及効果を及ぼし続ける事ができるのだ。

ではゴルフ場のように会員やゲストは勿論、ビジターにも何度も利用してもらいたい施設はどのようにすればよいのだろうか? 方策はどうあれ結局は「手を変え品を変え」て「庶民的なお得感覚」を演出し続けるしか方法はないと思う。 コース管理に焦点を当てれば、来場する度に違った表情を見せる仕掛けが有益で、設計家の立場からは残念だが斬新で前衛的なデザインなど逆効果。 捉え所のない茫洋としたコースを真面目に管理して、逆に季節感を演出するのが一番効果的なのだと思う。