株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2008年10月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第69回
 
芝のトラブルを人間の疾病と治療を例に考えてみる

温暖化の影響か突然の豪雨が特徴的だった夏も終わり、暑かった今年の反省をしている芝草管理者も多いだろう。
今回は芝でなく人間の疾病と治療を例にしてみよう。

突然で恐縮だが風邪の高熱で苦しい場合、諸兄はどのような対処をするだろうか? 解熱剤を飲んで安静にするというのが一般的だろうが、卵酒を飲んで布団を被る人や、氷枕で頭を冷やす人、中には踝までの足湯で沢山汗を掻くという人もいるだろう。 これらは発汗による体温調節機能を高めて、自然治癒力に期待するという意味からは、東洋的な手法だと思う。 ところが西欧では、同じ症状でも水風呂に浸かり直接体温を下げる処置が一般的である。 高熱が続くと健康な器官にまでダメージが及ぶ可能性があるし、高熱は風邪の原因ではなく結果なのだから症状を緩和するのが先決。という説明を受け、この考え方にも一理あると納得してしまった。

下痢の場合はどうするか? 水分の補給は当然必要だが、下痢止めを飲むだろうか? それとも、有害物質を速やかに排出するための防御反応を邪魔しないように下痢止めを飲まず、消化器官が空になるまで待つだろうか?

ギックリ腰ではどうだろう。 痛みを緩和するため患部を冷やしながら、腰痛が治るまで安静を保つだろうか? それとも、患部がその状態で固まってしまう事を防ぐため患部を温め続け、一刻も早くズレた腰の状態を元に戻す事に注力するだろうか?

これらの例で判るように、東洋では体を温める方に舵を切りやすく西洋は冷やす方に向かい易い。また、東西どちらが正しいかという問題は別にして、考え方の違いによっては同じ症状でも逆の処置をする可能性があるのだ。 小生自身は先の3例では後者を選択する事が多いのだが『風邪による高熱と下痢、しかもクシャミした瞬間にギックリ腰になってしまった。』という悲惨な状況では、体を温めるのか冷すのか?

実は夏場に起こり易い芝のトラブルは、要因が複数ある場合が多く、笑い事ではなくて前述の悲惨な状況に近い。 個々の現象についての対処方法は確立しているとは思うが、色々な状況判断や数々の作業がキーパーの考える理念に添った物であったかどうか、もう1度思い返して欲しい。 また、夏場の管理業務全体が統一された考え方に合致したものだったと再確認できたとしても、全く違う管理手法も存在するかもしれないし、情報収集の努力は怠れない。

幾ら反省しても思い当たるフシが無い場合で更なる改善を希望する場合、残された方法はコース改修しかない。 異常気象は頻度を増し、毎年天候のセイにはできないし、それに備えるのが管理者の責務だと期待されているからだ。 ただ、見当違いの改修もあるようなので指摘しておこう。

グリーンの肋骨配管を利用した冷房もしくはエアレーション技術が最悪の例で、この発想は小生には自然の摂理に対する無理解としか思えない。 例えば、風呂桶の栓を抜くと残り湯は排水口から綺麗に流れ去るが、これは僅かな勾配があれば液体は流れるという性質を利用している。 逆に、お湯をはった風呂桶の排水口から空気を噴出させようとしても、水圧に打ち勝つには相当な圧力が必要だし、よしんば泡が出たとしても細かい気泡になって浴槽中に拡散する事など絶対にない。 グリーンを直接冷やすのならスプリンクラーで撒く水を予め冷却するのが効率良いし、夜間の放射冷却現象を旨く利用する方がエレガントだ。