株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2009年1月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第72回
 
趣味と仕事

現在の日本では世界中の食材が入手可能だから、読者はいつもバラエティーに富んだ食事を楽しんでいると思う。
「同じような物ばかり食べているような気がする。」と、感じる読者は、年も改まった今年から奮起して自力更生を掛けてみようではないか。

先日、駐在員の奥様連中と話す機会があり、彼女たちの『だしを入れる』との言葉に複雑な気持ちになった。 何でも松竹梅の三段階で表現したがる老人の戯言を許してもらえば、だしは『入れる』『取る』『引く』という三つの段階や作法があると思う。 調味料を振り入れるだけの『入れるだし』など、結婚したての料理初心者か、時間的余裕のない共働きだけのものかと思っていたら、最近はそうでもないらしい。

確かに海外では小分けの削り節パックは高価で手に入り難いし、大袋は風味が逃げるので使い辛いが、そういう時こそ昔ながらの鰹節削り器が役に立つように思う。 凝り性の小生などは、台打ち職人に頼み込んで既製の削り器に納まる鉋を誂えたし、序でだし勿体ないという理由で『二番だし』まで取る。 因みにロシア時代には、玄米を家庭で精米して(白米は数ヶ月で酸化し変質するから、郵便事情が良くない所では必然だった)糠を分離し、ヌカ床や糠漬けを作っていた事は以前紹介したが、それ以外にも豆腐や味噌まで自宅で作っていたのだった。

自分が手間をかけて作った物だからといって、人様から見て美味しいとは限らないが、少なくとも家族には好評で煽てられると嬉しくなり、徐々にエスカレートして作業が楽しくなり、手段自体が目的になって遂には趣味化する。 という事態は良く起こる事だ。 この事は、別に料理だけの話ではなく、個人の趣向に関わる全ての事(例えばゴルフや音楽といった芸事や、日曜大工や盆栽などの本来の趣味、パソコンや車の運転など仕事との境目がはっきりしない物まで)に当てはまるだろう。

結局は当人の努力や苦労と、その代償としての充足感は比例するように思う。 だから、趣味の到達点は困難であるほど楽しめるし、逆に好んで難しい状況を選ぶ場合さえあるだろう。 ゴルフプレーだって挑戦するから面白いのであって、越えると判っているハザードばかりだと、ゴルフ自体が減点法のゲームになってしまう。 尤も、努力せずにお金だけが儲かる方法ばかりを夢見ている人達もいるのだが、それはお金を稼ぐ充足感ではなくてお金を使いたいという欠乏感の裏返しに感じるのだ。

さて趣味趣向の満足度は当人の努力によって報われる。 とは述べたが、実際の業務となると話は別だ。 当人の趣向はともかくとして趣味で仕事をやっている訳ではないし、誰にでも判る成果が得られる確証のない事に労力を裂いても、対費用効果では問題があるからだ。

日本のゴルフ場は、クラブハウスもコースも行き届いた管理を前提に作られており、結果的に非常に高コストだ。 しかも、コース管理は欧州の標準解から見ると、キーパーの趣味趣向に左右されていて、よく言えば緻密、悪く言えば感覚的な作業手法が目に付く。 一例を挙げると、欧州の殆どのグリーンは乗用モアで刈られているが、日本に比べて芝が密実で滑らかな転がりが得られている所も多く、手押しモアが標準の日本式管理手法が唯一の解答には思えない。

ここ数年は不況の嵐が吹く事は確実だと思うが、私自身も含め、趣味と仕事は別枠で考えた方が良さそうだ。