株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2009年2月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第73回
 
国によって異なるリストラ

リストラという言葉は日本では解雇と同じ意味に使われる場合が多いようだが、本来は事業などのリ・ストラクチャリング(再構成)を意味し、必ずしも解雇ではない。
例えば、景気が悪くなって売り上げが落ち、宣伝費を切り詰める事にした。ついては、宣伝担当の部署に余剰人員が生まれるので、配置転換または人員削減を検討する。 という流れの中で事業構造を変えるのがリストラで、ポジション・クローズによる解雇はリダンダンシーと呼ぶ。

小生自身は会社に入った事がないので耳学問なのだが、欧州の人員削減のやり方を、労働組合に加入していない場合だけだがお伝えしよう。

ロシアでは、基本的に3回警告状(ワーニング・レター)を出すと解雇可能だった。 尤も、当局が個人の仕事暦を保管するので、解雇されると記録として残る事になる。 企業側はそれを逆手にとって2回警告状を出した後、自主退職を迫るのが通例で、労働者保護とは縁遠く、先日までは共産主義国家だったのに? と、思ったものだ。

逆に欧州の中でもフランスは、18世紀のフランス革命の伝統からか労働者保護意識が強く、雇用契約を結ぶと解雇は事実上不可能に近い。 だから企業は雇用を控えるし、結果的に失業率も高くなる。 数年前に政府が解雇可能な就業トライアル期間を設けたため、若者を中心に暴動が起きた事は記憶に新しい。

英国では雇用者と被雇用者の間に節義を持って行動すると言う義務はあるものの、就業態度、能力、余剰人員の整理、法律違反、その他の重大な理由がある場合は、4週間の事前通知後に解雇可能だと聞いた事がある。 しかし、日本と違い欧米では外国人労働者の問題もあるし、同じ会社に10年も勤めるのは稀だから、相対的に労働者にとって有利になるように考えられているように思う。

スペインでは、解雇以前に法律によってこの不景気の最中でも年間給与上昇率が決められ(欧州平均より賃金が低いのが理由だそうだ)、更に妊産婦に対する保護も徹底しているから、最近は外国企業も投資を敬遠している。 出産休暇中の女性社員のピンチヒッターとして雇ったテンプスタッフが妊娠したので、テンプのテンプ(妊娠中の女性は絶対解雇できないから)を雇う事になり、今度こそは男性をと希望した管理職が女性差別で訴えられた。 という笑い話がある程なのだ。 一般的には3ヶ月の告知期間と就業年数×45日分の一時金の支払いだが、解雇は訴訟に発展する可能性が高い。

このように労働組合が絡まない場合でも欧州内でリダンダンシーを出す事はリスクの高い仕事だと思う。

日本の場合は移民や外国人労働者が欧米に比べて少なく、企業間転職もまだまだ少ないと言う事情に加えて、年功序列というか就業年数に応じて昇給するという特殊な基準が存在するのが特徴だ。 同じ仕事を長年こなしていると名人芸の域に達するのかもしれないが、少なくとも数年で熟達し独り立ちできるような仕事内容を考えるのも、管理職の責務だろうと思う。

最近話題になっている派遣社員の処遇問題だが、元々は小泉政権の目玉として労働力の流動化を目指した施策だったように記憶している。 それから10年も経たない内に今度は派遣切りが問題になるのは、経済環境の激変だけの問題ではなく、我々の思慮の浅さを象徴している事例ではあるまいか? 今こそ冷静な大人の対処をしたいと思う。