株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2009年3月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第74回
 
モバイル・ワールド・コングレス・2009

早春の地中海沿岸の都市は、国際会議が目白押しだ。
その中で、今回はバルセロナで開催された携帯機器展示会(モバイル・ワールド・コングレス・2009)で感じた事をお伝えしよう。 ゴルフ業界とIT機器展では、関連性が薄く感じるかもしれないが、現代、少なくとも近未来では大有りだからだ。

コンピューター用語ばかりで恐縮だが、今世紀に入ってそれまでの中央演算処理装置(CPU)の補助として画像演算処理装置(GPU)が開発され、膨大に膨れたグラフィックス処理を分担し始めた。 元々画像処理は、複雑な論理演算よりも単純な計算を高速に大量処理する事が求められており、必然的にGPUは並列処理が得意に育っていった。 5年ほど前に強力になった並列処理能力を他の用途に使うGPGPU(GPUの汎用的計算)という概念が提唱され、世界中の科学者が超並列ベクトル計算等に利用し始めたのだ。 具体的には物理シミュレーションやタンパク質の構造解析、人工知能や群集AI、医療用の断層画像解析や石油探査などで成果を挙げているらしいが、更に広範囲な分野で利用可能でありGPGPUは科学界の一大トレンドになりつつある。

小生も、スペイン、ロシア語はおろか英語も不如意だがC言語習得に励んでいる有様なのだが、近年の電子技術の革新速度は本当に凄まじい。 今や、人類が初めて月に到達した時にNASAが使っていたスーパー・コンピューターと同等の処理能力のパソコンが、書斎に設置可能なのだ。

今までGPUは消費電力の点で携帯機器への内蔵は難しかったが、ハードソフト両面の努力により小型で安価なプロセッサーが開発された。 今回のバルセロナの携帯機器展示会はその発表場所だった訳で、この科学界のトレンドが携帯電話やナビゲーションといった一般ユーザーに近い所まで浸透してくる事を予感させる物だったのだ。

ゴルフ界との接点と言う意味では、地盤調査や土木CADとの連携といった設計から、薬剤の効能判定用画像処理や競技会当日の導線の検証などの運営管理者用のソフト、精度の高いナビゲーションや携帯電話用ゴルフゲームなどのエンドユーザー向けまで、これまでとは全く次元の違う展開になってくるだろう。 そういう意味で技術トレンドを押えておく事は、近未来に生き残る必要条件なのだ。

さて、IT関連の科学技術は物凄い勢いで加速し続け、我々は時流に押し流されてしまうのだろうが、小生自身は一抹の不安もおぼえている。 テレビの画面がモノクロからカラーになり、ハイビジョンになって伝送情報量は数千倍になったはずだが、我々は果して何倍感動しただろうか? 精緻な画面だから感激するというのは、技術の思い上がりではないのだろうか?

C.H.アリソン氏や井上誠一氏は等高線(コンターとカタカナにする輩もいるけど)さえも描けなかったがコースの要点は押さえていた。 無論、現代の土木技術水準からは遠く及ばないのかもしれないが、ゴルフの本質を伝え、ゴルファーを啓蒙し続け、しかも未だに尊敬され、愛されているではないか!

本当のゴルフの面白さは、仮想空間の出来事でなく現実のプレーを通してでしか味わえず、楽しくプレーするには自己鍛錬や社会性など色々折り合いが必要だが、それがゴルフの本質なのだと思う。

今ゴルフ界に求められているのは、多くの人をゴルフ場に呼び込み、楽しんでもらう努力だろうと思う。