株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2009年4月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第75回
 
ゴルフウエアーの変化

大昔、人類が生まれて間もない頃、ネアンデルタール人という種族がいた。
彼らは北方のクロマニョン人に駆逐され、ピレネー山中で滅亡するのだが、スペイン人の中には明らかに彼らの末裔だと思われる人達がいる。

ネアンデルタール人の身体的特徴は、頭が大きく彫の深い巨顔、男性は165cm程で骨太筋肉質の胴長短足だと推定され、肉食の大食漢だった。 彼らは旧人と呼ばれ、現生人類に直結してはいないのだが、もし彼らが現代でも生きていたらどんな服が似合うだろうと想像すると愉快になる。 長身のクロマニォン人に限らず西洋人は長足で胸板も厚く、現代のジャケットとズボンの組み合わせは、その特徴に合った衣装に感じるからだ。

緯度は高いのに日差しが強く、暖かいというより暑いスペインでは、日本ほどではないにせよリラックスして涼しく過ごせる服装が好まれる。

何度かスペイン人達のゴルフコンペに参加してビックリしたのは、プレー後にシャワーを浴びてから集まる時でも、9割方がTシャツとGパンといった砕けた装いなのだ。 尤も、おしゃべり好きのスペイン人は歩く速度は早いのに、ハーフラウンドで3時間も掛かる事が多く、ラウンド途中でボカディージョと呼ばれるスペイン風サンドウィッチを頬張り、プレー後はそのままの格好で戸外のパラソルの下でだらだらと昼食を楽しむ。 つまりコンペの商品授与でもない限り着替える事はなく、ゴルフウエアーのまま車に乗って家に帰るのが普通だ。 日本人の平均ラウンド時間やハーフターン昼食の話をしたら、それは良いアイデアだと逆に感心されてしまった。が、今以上のスロープレーになったら如何しよう。

別に旧石器時代の狩猟民族と比べる心算は無いのだが、農耕民族は歩くのも遅いし、頻繁に食事し、トイレも近い。 だからラウンド途中で食事をする日本の習慣は必然だったのだろう。 が、ゴルフシューズや汗臭い衣服のまま食堂を使うよう仕向けられた挙句、行き帰りにはジャケット着用が推奨されている現状は考えてみれば不思議な事だ。 昨年の夏、英国在住時代に在籍していたストークポージスGC(現在はアメリカ資本に買収されて名前も変わった)に挨拶に行って仰天した。 ここは初代支配人をC.H.アリソンが務めた、歴史のある由緒正しい倶楽部なのだが、ハウス内を闊歩している女性客全員が、著名ブランド?のGパン姿だったのだ。

貴金属アクセサリーをジャラつかせたご婦人を作業員と間違える人はいないと思うが、ドレスコード本場の英国でも確実に時代変化は起きているのだと実感した。

19世紀末から20世紀初頭にかけて、ゴルフ規則などと共にドレスコード等の倶楽部内規約も整備されてきたのだと思う。 しかし、当時のゴルフ文化を担ったジェントルマン・ゴルファーとは、執事や家政婦といった家庭内使用人が3人以上居る事が条件だったとの説もあり、現代とは随分事情が異なるのだ。 逆に言えば、100年前の涼しい国の特権階級の常識を、蒸し暑い国で連綿と受け継ぐ事に何の意味があるのだろうか? 私自身は英国で伝統的なゴルフを学んだ老人なので、今更自分のスタイルを変える勇気など無いが、それを若い人達に強要する心算などないし、挑戦して欲しいとさえ思う。

自分の体型や気候に合った快適な服装を考え、探し、工夫する事は楽しいし、そうでなければ新しい活力など芽生えてこないように思うからだ。