株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2009年5月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第76回
 
古典的な芝種計測方法

テニスのバルセロナオープンが自宅から徒歩数分の距離にあるテニス倶楽部で開催され、前評判通りクレイコートに強い現在世界ランキング1位のスペイン人が優勝した。
テニスの場合、ハードコートやクレーや芝といった違ったサーフェスで試合が行われ、ランキング上位選手は全ての状況で活躍している訳だから、結果的にプレーヤーの適応力が問われているように思う。 ゴルフ競技では洋芝グリーン一辺倒だが、暑い季節や地域では高麗芝グリーンでの競技会も開催して欲しいと思う。 今やゴルフは世界中で楽しまれているが、欧州では高麗芝グリーンは生育し難く、管理技術も未発達だからだ。

そういえばウィンブルドンのセンターコートに、開閉式の透明屋根が完成したそうで、今年からは気まぐれな英国の天候による試合中断や順延が解消されるらしい。 同時にスタンド上部を覆っていた金属屋根も取り払われたから、芝にとっては通風や日照条件が改善されるだろう。 因みに、このテニス界最古の競技会開場の芝は常時8mmに刈り込まれ、2001年からは擦り切れ対抗性を上げる目的でペレニアル・ライグラスだけになった。それ以前はクリーピング・レッド・フェスクを3割混ぜていたそうだ。

元々テニスは室内遊戯から発展したものだから、ローンコートに屋根が掛かって巨大な温室(実際、除湿方法が難関だった)になっても驚きはしないが、ゴルフ用のグリーンでは不可能な話だ。 それなのにグリーンに求める希求水準は年々高まるばかりだから、グリーンキーパーも大変だろうと思う。

さて、日本ではゴルフ場のグリーンが芝にとって最も過酷な状況だろうが、スポーツターフという意味では多種多様な要求がある。先のテニスコートでは最低13日間最高の状態を保てる事。クリケットコートでは極端な低刈りに加えてローラー転圧。競馬場では蹄跡の回復速度などだ。 管理者はその要求に相応しい芝種を選び、目的に合致した管理手法を実践している筈だが、芝は撒いた種の配合通りに生育するとは限らない。 だから定期的に芝種の混合割合をチェックする必要があり、原始的だが100年以上前に確立された計測方法と計算根拠があるので紹介しよう。

フィート・ポンド法を使う英国では1ヤード×6インチなのだろうが、日本では長さ1メートル、幅15センチ、厚さ3センチ程の板に10センチ間隔で2列(合計20本)5寸釘を打ち抜いた計測器を用意する。これを釘が水平になる方向でグリーンに置き、真上から見て上下の釘の先端が指し示す直下の芝種を順番に記録するだけなのだ。 少なくとも3回以上場所を変えて計測する事が推奨されているのはスティンプメーターと同じだが、確率論を根拠に計測箇所数と誤差範囲(この計測方法に限らないが)が定められている。50箇所計測して1割の精度、1%の精度を確保するには500箇所のデータが必要なので、グリーン当り3回(30箇所)測っただけでは有意差はでないようだ。

もう1つ計測者の知識(これが問題)に左右される難点も指摘され、刈り込まれた芝種を判別するのは難しい。 私の経験ではベント、フェスク、カタビラ程度なら色による識別も簡単だが、もっと専門的にクリーピング性や亜種の判定はサッパリだった。 カタビラの学名はご存知のポー・アニュアだが、これには変異種や亜種が沢山存在し、鳥インフルエンザが豚インフルエンザに変異したように色々亜種を生み出して、其々耐性も違うから厄介なのだ。