株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2009年6月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第77回
 
日本食ブーム

以前は欧州内を旅行し評判のレストラン行くと、日本人のコックさんによく出会った。
彼らは欧州に観光ビザで入国し数年間修行を積んだ後帰国すれば、日本では本場仕込みとして活躍できる筈だから、皆一生懸命だった。 尤も雇い主から見れば、手先が器用でよく働き、就労ビザの関係で破格の賃金ですみ、しかも日本料理の技法を盗むチャンスが向こうから転がり込んで来た訳だから、濡れ手に泡だったのかも知れない。

欧米での日本食ブームは留まる事を知らず、鮨や天麩羅といった直接的な食べ方だけでなく、盛り付けや調理技法を取り入れる事が当たり前になっており、今や昔ながらの料理を探すのが難しい位だ。 現代の著名なシェフは日本を頻繁に訪れており、隠し味で醤油を旨く使いこなし、最近は味噌にまで興味を示す。 若手の新進気鋭シェフなど、成田に降り立ったらその足で築地の魚河岸に直行する。という有様で、現代の西洋料理はどれだけ上手く和食技法を取り入れるか?という競争をしているようにも見える。

元来西洋人は和食を美味しいと思っていた訳ではない。 以前は和食の事を装飾過多で密実な本体(肉)に欠け、頼りなく食べた気にならない。と評していたようだ。 しかし、長寿で百貫デブにならない料理を探していたら、肉と魚や野菜や穀類等をバランス良く摂取でき、見た目も可憐で飽きず、応用可能な和食に出会った訳だ。 どんな料理だって沢山食べれば太るのだが、、、

最初に日本食の可能性に着目したのは30年程前、リヨンのポール・ボキューズ氏などヌーベル・キュイジーヌの旗手たちだったように思う。 彼らは伝統的なフランス料理の濃厚なソースを変化させ、もっと軽快でフレッシュな料理に変えたかったのだ。 尤も直接的な原因は、大食漢の米国人の趣向に合わせるためだったように思うが、輸送機関や冷蔵庫の普及によって食材の保存を気にせず、新鮮な素材を活かす事が可能になったという事だろう。

日本料理は素材本来の姿や色や食感を大切にしている。とよく言われる。 逆にいえば正体が無くなるまで煮込んでソースにしたり、細切れを混ぜ合わせて均一な食材にする強引な手法より、素材が生きていた状態を再現する事や、食材に手を加えず部位による味の違いを際立たせたりする簡素でエレガントな手法なのだと思う。 しかも『茶の湯』文化の影響だろうが、日本には左右対称の構成的な美学では説明のできない非対称の美に対する鋭い感性が息づいている。 外人のシェフに和食器には手前(正面)と奥があるという事を理解させるのは難しい。 そんな具合だから、和食に触発されたと思われる料理の盛り付けの納まりが悪く、苛立ってしまう事がよくある。 無作法な事は承知しているが三ツ星レストランでさえ、供された料理がもっと美味しそうに見えるように、皿を少し回転させる必要があるのだ。

全く個人的な感想で異論が在る事は充分承知しているが、現在のフランス料理の著名なシェフほど和食のエッセンスを取り込んでおり、世界的な評価は別にして、我々から見ると模倣の域を出ない。 ひょっとするとゴルフコースのデザインや管理も、我々がもうちょっと本気を出せば勝てるのではないだろうか? 世界的に見てコースのレベルを評価するのには比較対称が必要で、それらが日本の影響を受けているとすれば、日本文化の優位性を強調する事もあり得る選択肢だと思う。