株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2009年7月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第78回
 
匂いのいろいろ

ラテン人はやたらと友好的かつ情熱的で、特に顔見知りの異性との挨拶はハグしながら交互に両頬にキスをする。
が、小生はこの習慣が苦手で、特に汗をかく夏は気を使う。 彼女達の香水に咽るからではなく、オヤジ臭いと思われるのを危惧しての事である。

スペインのゴルフ場は必ずシャワー室の洗面台にヘチマ水のような化粧水と、天花粉のようなパウダーが置いてあり、これがとても調子よい。 この組み合わせは一般家庭でも常備しており、化粧水は安価で微香なのでオー・デ・コロンの何倍もジャブジャブ使い、アルコールを含むから火照った肌を冷やすし、同じく安価なパウダーが肌をサラサラに保って気持ちよい。 日本も昔はヘチマ水と天花粉の組み合わせが一般的だったように思うが、香料を加えて付加価値をつける事が逆効果になる事もあるのだ。

さて、汗臭さの原因を汗の出る汗腺の違いで説明しているサイトもあるけど、汗そのものが臭うなら例えばマラソン競技のゴール地点など大変な事になると思う。 本当は汗腺の違いなど僅かで、かいた直後の汗より皮脂や汗と一緒に出る老廃物等が細菌によって分解される時に発する臭いの方が問題なのだ。 という事は、たとえ大汗をかくとしても細菌の繁殖が抑えられれば良く、濡れタオルで老廃物ごと汗を拭き取る事や、化粧水などで表皮を弱酸性に保つ事が効果的である。 逆に、たとえ微量でも細菌が繁殖する環境が整っていれば、彼らは継続的に繁殖するので、汗の付いた衣類はできるだけ早く洗濯するべきだろう。 だから毎日は洗わない帽子や作業着や靴などが臭いのだ。

話のついでに小生の特殊技能についても書いておこう。 事の発端は小学生の時(半世紀も前だが)の臨海学校で、まとめて洗った下着の持ち主が判らなくなり、小生だけが特定できたという事件だ。 10歳の子供だから、他の生徒の匂いを嗅ぎ回っていた訳ではないのに、洗いたての下着に鼻を近づけただけで『○○チャンの』と判るとは、自分自身が一番びっくりした。 これ以降『犬男』と呼ばれるのだが、少なくとも80人の同級生の1/4(残りは下着に名前が書いてあった)は犬男が下着を選別していたと思う。

アホな自慢話は別にして、人間の嗅覚は犬ほどではないにせよ非常に優秀なセンサーで、未だに最新の計測機械より性能が良いそうだ。 この能力を芝草管理者が利用しないのは勿体ないし、キーパーの仕事は五感(時と場合によっては第六感も)を総動員すべき仕事だと思う。

ゴルフ場ではグリーンに穿った穴が恰好のテストになり、この匂いは地下20cmまでの床砂の状態を反映している訳だから、地表では目視できない貴重な情報が得られる筈だ。 この場合、プレーヤーなら球を拾い上げる時に感じるだけだが、グリーンキーパーならワインのテースティングと同じように、穴の中に鼻腔を入れる事を強くお勧めする。 この手法は必然的にグリーンに寝転がらなければならないが、特に不透水層の有無判別に有効で、硫黄臭の混じった腐敗臭を感じたら早急の手当てが必要なのだ。

考えてみれば、汗は殆どが水分で、窒素化合物の皮脂や微量の老廃物(金属イオン等)が細菌の餌になる。 これに光合成という要素を加えれば、まさしく植物の生育条件だ。 大きく見れば、細菌も植物も動物も似たような原理で生活している訳だが、犬男の小生は飲み屋に行ってもグラスの臭いが気になるから『三つ子の魂百まで』なのだろう。