株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2009年9月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第80回
 
オリンピックのゴルフ競技

2016年夏季オリンピックの開催地が10月2日に決まる。
更にこの大会で112年ぶりにゴルフがオリンピック競技に復活するかもしれないのだ。 現在の候補地は東京、マドリッド、シカゴ、リオデジャネイロだが、もし東京が選ばれ且つゴルフ競技も行われるとしたらどうなるだろうか?

東京は1964年から2度目の開催地となるので半世紀前の施設も再利用し、新たにベイエリアに新設する競技施設も合わせて、コンパクトでエコな大会を目指している。 ゴルフ競技は男女各60人による個人戦で、18ホールズのストロークプレーだから競技期間1日の超短期決選。 という事は激しいバーディー合戦は必至で、攻撃的なゴルフに徹した者にしかメダルのチャンスはなく、現在以上にパッティングの出来が勝敗に大きく影響するだろう。 さらに東京大会は7月末から8月半ばの酷暑期間中だから、芝草管理も大変そうだ。

一方、世界屈指の強豪が集まる4大メジャー競技では、現時点でコースレート80、7400ヤード程度の難易度で、距離は毎年約10ヤードずつ伸び続けている事を考えると、有効な飛距離抑制手段が見つからなければ2016年のオリンピック用のゴルフコースは7500ヤードも必要なのだ。

次回ロンドン大会でのゴルフ競技開催地なら、内陸コースの伝統を踏まえてウエストエンドから小一時間で行けるサニングデールか、もしくはゴルフ自体の歴史遺産たるリンクスコースのサンドウィッチが有力候補だろう。 が、東京大会の場合は交通手段やコース全長の問題があり、東京近郊の既存著名コースでの開催は難易度が高い。

と、考えていたらお膝元のベイエリアに東京都が管理するパブリックコースがあることを思い出した。 此処は東京都から出るゴミを10年間埋め立てて作った物だからその気になれば拡張可能だし、都市型ゴルフの新たな可能性という意味でも21世紀に相応しく、コンパクトな競技施設配置という理念にも合致する。 古典的リンクスコースも実は農耕不適格地の有効利用だったのだ。

しかし、日程を考えると敷地拡充は難しく、かといって現状では如何にも狭い。 考えてみれば、オリンピックの競技方法はマッチプレーでもなく、年次の優勝者を決める倶楽部競技や、数日戦う既存トーナメントとも違う。 極言すれば、巷のコンペからハンデキャップ制度を取り去っただけの競技方法だが、参加者のレベルが凄い!のだ。 とすれば、ゴルフの伝統に縛られる必要はなく、逆に世界中のゴルファーの実情に合わせた方法が望まれているのではないだろうか?

さて「現代のプロツアー競技ではショットに比べてパットが偏重されて過ぎている」。という意見をよく耳にする。 ツアーに参加するような猛者は充分な飛距離を持っているから、勝負はパットで決まるという事なのだろう。 しかも伝統あるコースは軒並み全長不足で困っているのだ。

この問題の尤もエレガントな解決方法は、直接的な飛距離抑制ではなく、携行クラブの本数制限を強化する事だ。 隣接クラブ間の距離ギャップが広がれば、必然的にコントロール技術が磨かれ、相対的にショットの重要性が増すし、さらにこれは飛距離の出ない者に有利に働く利点もある。

オリンピックのゴルフ競技は、キャディーに頼らず9本のクラブでプレーすべきだ。 これこそが、世界第3位のゴルフ大国でなければ発信できないメッセージだと思う。