株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2009年10月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第81回
 
『タダ』の時代

もうすぐマイクロソフトの新しいOSが発売される。
しかも今回は発売前に2度も価格改定が行われ、来年発表されるグーグルのフリーOSを相当意識している様子だ。 この機会にフリーソフトに留まらず『タダ』の意味を考えてみたいと思う。

子供の頃、親に『タダより高い物はない』と教え込まれた読者も多いと思う。 正当な対価を要求せず無料にするという事は、それが健全な価値を持たない物か、或は見返りにとんでもない要求が控えている物だから、注意しなさい。 という意味だった。 しかし、近年その常識が通用しない事態が起きている。

民放テレビの視聴料がタダなのは判りやすいが、公共事業の入札価格が1円だったり、自動車会社の転売価格が1ポンドだったりすると、正当な価値判断自体が難しい。

スペインでは国営放送にもコマーシャルが流れており、政府がCM料を吊り上げた為に問題になったのだが、宣伝したい企業からのお金で番組を作り『タダ』で放送するという図式は同じ事だと思う。

つまり現代は、需要と供給の『神の見えざる手』による相互作用だけではなく、複数の作為的要因によって価値判断される場合があるらしい。 この新たなビジネスモデルの創出により、商品の価格は実コストとは無関係に決まるようになり、コストとの乖離幅が大きいほど新たに創出したビジネスの旨味も大きい。

この『タダ』に道義的背徳感を感じなくなった現象は、インターネットが普及し始めた直近20年の事だろう。 これはインターネットの枠組み自体が『タダ』だという事に加えて、コンピュータの飛躍的な進歩が多様な価値を生み出したためだと思う、

一方、同じ無料でも多くのフリーソフトのように、人々の善意が元になって発展した『タダ』もあるから複雑だ。 今では製造業や土木建築業界ではCADシステムが必須で、小生も英国設計家協会の連中が使っているためAuto-CADを持っているが、日本のゴルフ業界の諸兄には日本製のJW-CADというフリーソフトをお薦めしている。 このソフトは都内某区役所に勤務する作者の真摯な努力によって作られ、パソコン通信により日本全国建築関係者の改善提案と共に改良されてきた歴史がある。つまり非常に健全な成り立ちを持ち、大変使い易く、しかも『タダ』だ。 この場合『タダ』の利点は、仕事場と自宅のパソコン、または事務所全員のパソコンに導入しても『タダ』だから、結果的に確実なデータの共有化ができる事だろう。 キーパーの業務もIT化の波は避けて通れないのだ。

さて、本題に戻ると『タダ』なる新たなビジネスモデルは、インド人の『ゼロ』の発明と同じように、瞬く間に世界中に伝播するように感じる。 ゴルフ業界ではグリーンフィが『タダ』になるような新たなビジネスモデルが近々の内に開発されるに違いない。 ゴルファーにとっては嬉しい変革かもしれないが、ゴルフ関係者は厳しい決断が要求され、明暗が分かれるだろう。 願わくは、発明者は預託金システムを編み出した日本のゴルフ業界関係者である事を祈るが、誰が発明しようとパンデミックの速度が速いので、数年後には似たようなビジネスモデルが乱立するだろう。

うちはメンバーシップがしっかりしているから大丈夫。などと考えないで欲しい。 コンピューターソフトの巨人でさえも未発売の大型新製品を慌てて値下げする前代未聞の事態になってしまうのだ。