株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2010年1月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第84回
 
IPの由来

先日、某ゴルフ倶楽部のコミッティメンバーからアイピーについての質問を受けた。
考えてみるとIP(インタークロスセクション・ポイント)はゴルフ関係者なら知ってて当然だから話題にしたことがなかったが、年も改まった事だし、キチンと考えを纏めておきたいと思う。

元々IPは測量用語で日本だけで頻繁に使われており、少なくとも欧州ではゴルフ用語とは認識されていない。 欧米ではランディング・ポイントという言葉を同じような意味に使うが、相違点もあるので注意が必要だ。

その前に日本ゴルフ界でのIPの由来を想像してみよう。 日本のゴルフ場設計や施工には、日本特有のゼネコン組織が深く関わってきた。 敷地を纏める不動産業務、煩雑な許認可、災害等を防ぐ為の調整池容量計算、大型土木機材のレンタルや操作員の確保、円滑な工程管理、資金繰り等を総合的に請け負う組織が必要だったからだ。 一方でゼネコン側は土量と呼ばれる工事量の積算目的で、精密な施工図(ホールの横断面図等)を必要としていた。 そこでゼネコン自身が実際のゴルフプレーに近いと思われる架空のポイントを決め、そこを測定点としてホールの横断面図を描き、それを根拠にして代金請求や工事の段取りを行う風習が一般化した。 20年前のバブル期ではバックティー中央から250ヤードが一般的だったが、驚くべき事に半世紀前の井上誠一氏は240mを基準にしていた。 いずれにしてもIPは高低差やハザードレイアウトを考慮せず、必ずフェアウエー中央に置くのが基本である。 また、ドッグレッグも2グリーンでも、パー4の場合ならIPは1箇所で、ティーとIPまた各グリーンとIPは直線で結ばれ、交点がIPである。

ところで、ランディング・ポイントと何処が違うのか? 両方ともドローやフェードといった球筋を規定している訳ではないし、ティーショット着弾地点ではなくランを無視したセカンドショットのポジションを示している。 更にレディースティーから(設計者は考えているが)を表現していないのも同じだ。 決定的差異はランディング・ポイントの場合はフェアウエー中央とは限らない事だ。

実際のゴルフプレーでもピンがグリーンの端に立っている場合や、ドッグレッグしたホールの場合、フェアウエーセンターが必ずしもセカンドショットのベストポジションではない事はよく経験する。 ドッグレッグの曲がり角までの距離が長い場合は、大回りというか外回りの方が有利だし、逆に距離が短い場合なら思い切ってショートカットを狙う選択肢もあるべきだ。

更にストラティジック(知略型)設計の場合、次打のべストポジションにハザードを置く事が基本で、曲がり角にバンカーを配置するのだが、その場合などハザード近くのフェアウエー(中央ではない)をランディング・ポイントに設定する事がよくある。 つまり、設計上でもフェアウエー中央がベストポジションとは限らないのだ。

IPは施工側の積算根拠が本来の目的で、プレー上のベストルートを示してはいない。(尤もIP通りにプレーすれば良いスコアーになるが、) 日本では長い間、プレー上のベストポジションとIPとが混同されてきた。 その原因は、設計者がプレーヤー側ではなくて施工側を向いて仕事をしたからだろうが、現実的にはプレーヤーに説明するよりも先に、自分の考えた物を具現化する必要があったのだろう。