株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2010年3月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第86回
 
バルセロナの話題

英国7年から始まった海外生活もロシア2年、スペイン3年になるが、また3月末に転居する事になった。
今度の行先はハンガリーのブダペシュトだが、彼の地の情報は次回以降に回して今回はバルセロナの話題です。

ブダペシュトもユネスコが『顕著な普遍的価値』があると認め世界遺産に登録されているのだが、バルセロナもアントニ・ガウディーの作品群や同時代のサン・パウ病院等複数の世界遺産があり、先日そのサン・パウ病院の新館が完成したので見学した。

欧州の医療制度は日本と違い公共(パブリック)医療と個人(プライベート)医療がはっきり分かれている。 スペインでは、公共医療は薬を含めて原則的に無料だが、診察予約は6か月先、入院の予約は2年先しか取れない等と悪口を言われている。 個人医療は国民健康保険等が使えず医療費は全額負担だが、サービス(医療技術が高いという意味ではない)は良く、日本人ならほぼ全員がプライベート診療だと思う。

さて件のサン・パウ病院はモンタネールの時代から公立病院だから、お金持ちばかりが通院している訳ではなく、運営資金も潤沢にあるとは思えないが、モデルニスモの旧館は文化遺産に登録されたのが納得できる程の威容を誇り、新館も大胆な構成と近代的な工法による清潔感があって、同一敷地内の建築物の対比が面白かった。 しかし、一緒に見学した妻から『日本の建築は100年前も現在もスペインに負けている。』と言われてしまった。

彼女の云わんとする所は、必ずしも勤勉とは言えない。というより、独自の技術もなく怠惰でお気楽なスペイン人が、明らかに日本より豊かな暮らしを甘受し、1人当たりのGDPも似たような水準であるという現実をふまえて、先進性を持った決断の必要性なのだろうと思う。 分かりやすい例を挙げると、カサ・ミラというガウディーの作った分譲マンションには、窓に鎧戸の代わりのシャッター枠が仕込んである。 100年も前のしかも鉄筋コンクリート造は未だ実用化されておらず石を削って積み上げるしか方法がなかった時代に、快適な暮らしを求めて先端技術を取り入れた慧眼には心底頭が下がるのだ。

別にスペインの医療制度を日本と比べたり、パブリックとプライベートを日本のゴルフ倶楽部の形態になぞらえたりする意図はないのだが、スペインを去るに当たり、未来を見通す力の素晴らしさと、快適な暮らし方に妥協しない事が今の日本には必要なのだと強く思った。

さてゴルフに目を移すと、昨年の正月時点でのスペインゴルフ場数(ピッチ&パットコースも含む)は前年より21か所増えて380コースで、その約1割がパブリック。倶楽部数は544。ゴルフ人口は333818人(以前お伝えしたがフェデレーションに登録しないとゴルファーとは認められないから)だそうだ。 アフリカ対岸のリゾート地を抱えるアンダルシア州が96か所、次いで観光客の多いバルセロナを中心都市とするカタルニア州が46か所らしい。 つまり温暖な気候と輝く太陽を求めて集まる、海外からのゴルファーが目当てなのだ。 という事は、不景気の影響をモロに受け、水資源が乏しい事も影響して、最近は倶楽部経営が苦しいと聞く。

ところで18ホールコースで比べると日本の1割、積算方法が違うがゴルフ人口30分の1のスペインが、著名なプレーヤーを輩出し続けている理由は何だろうか?