株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2010年7月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第90回
 
グリーン回りの排水設計

今年は地球規模の雨年で、欧州を含む世界各地で大雨による災害が頻発している。
中でも台湾で起きた深層崩壊は、そのメカニズムを考えると、乱暴に開発されたゴルフ場でも起きそうで怖い。 無論、ゴルフ場は大規模開発行為だが大自然より小規模で、単純な円弧すべりが多いのかもしれないが、地山と盛土の境目付近(植物が根を張る土壌部分より深い場所)に水が溜まって、比較的傾斜の緩い場所でも地滑りが起こる可能性は否定できないと思う。 日本のコース造成は合法的に16mまでの盛り土が許されてきたし、コストの問題で地山の表土(潤滑剤になりえる)を剥ぐ事もせず、天然の水道を無視して造成された例も多いと聞くからだ。 数年前にフェアウエーの陥没事故が起き、豪雨頻度が高まる昨今、ゴルフ場での災害は二度と起こしてはならない。 土木的な検証はキーパーの手には余るが、調整池とダムの堆砂対策や、造成前の地形図等を入手してどんな開発だったのか? 概略を把握しておく必要はあるだろう。

さて、明治時代のオランダ人土木技師が日本の川を見て『滝』だと驚いた逸話は有名だが、個人的には室町時代の宣教師(フランシスコ・ザビエル?)が書簡に書き残した『日本の川は縦に流れる』の方が文学的で好みだ。 日本より雨が少なく高低差も少ない欧州大陸の川は、流れが緩く、蛇行し、濁っている。 同様に欧州ではゴルフ場でも地下排水路は苦労するのだが、今回は災害になるほどの豪雨とは別の一般管理の観点から、欧州のグリーン回りの排水設計を考えてみよう。

現代では、グリーン基盤の排水。特にスマイルドレーンの必要性は読者も十分に認識されていると思う。 が、欧州ではスマイルドレーンからの排水経路と、周りのバンカーからの排水経路は別系統にしなければならない。 と教わるし、よほど予算的に苦しい場合を除いて、技術者の良心として別系統にするのが普通である。 理由は2つあり、大概の場合グリーン基盤排水口の標高(レベル)がバンカーからの排水レベルより1m以上高く、そのまま繋ぐとグリーンからの水でバンカーが池になってしまう可能性がある事。 もう1つが、雨がバンカー砂だけを浸透する時間に比べて、グリーンからの地下排水は時差があり、合計流量と排水路(エプロン部分が混雑する)さらに、毎年の清掃点検を考えると、必ずしも共通排水が最適解ではないからだ。 日本のコースは浅いバンカーが多い事に加え、片流れの斜面が多いので放流先に困らないのかもしれない。

以上は地下排水路の話だが、低刈りしたグリーンでは水が浸透せず表面を流れる可能性が高いので注意が必要だ。 ご存知のように、USGA方式における床砂の透水係数は毎時250から350ミリメートルが標準的で、多雨地域の日本では600ミリ以上必要だという意見さえもある。 しかし、透水係数の値はその降雨量(例えば毎時350ミリ)の雨なら全て床土に浸透するという訳では決してない。 水が浸透できるのは床土の気相部分(理想状態でも15%)だけだし、砂粒子等のいびつな固相や、芝やサッチ部分も明らかに透水抵抗だろう。 逆に芝を短く刈り込んだグリーンは、芝面の摩擦抵抗が軽減されるから、雨が表面排水されやすくなる訳だ。 非常に大ざっぱで恐縮だが、毎時30ミリ以上の強い雨ではグリーン上を水が走るから散水という観点では除外しなければならないのだ。