株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2010年8月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第91回
 
暑さについて

大陸性気候下での猛暑は7月後半で、ブダペストは連日35度超えだし、モスクワでも史上初めて38度を超えた。
尤も湿度が低いので日本より過ごしやすいし、8月20日を過ぎると急に気温が下がり始め秋の準備に入るようなので、今回は暑さの話題です。

暑くなると不快指数が気になるが、これは半世紀以上前に米国の天気予報で実用化された蒸し暑さの指標である。 育った環境や人種の違いもあるが、例えば日本の労働安全衛生法での合法上限である室温28℃の場合、湿度80%以上でほぼ全員が不快と感じ、45%以上でも半数以上の人が不快と感じるらしい。 実際には団扇や扇風機を使って体感温度を下げる工夫をするだろうし、戸外では直射日光さえ上手く遮れば風があるので不快感が和らぐのだ。

問題は、人間の感じる不快指数ではなく、植物特に芝が感じるストレスではないか?と思うが、確たる指標が見つからないので困っている。 C3植物が日本の高温多湿環境で疲弊するのは良く知られた事実だが、それが台所でよく起きる火傷と同じように一瞬の高温接触なのか、湿度も関係した高エンタルピー状態なのか、強すぎる日光(紫外線)による一時的な機能障害なのか、未だに詳細には解明されてはいないようだ。

もし、高温多湿のピーク値を下げるだけなら正午近辺にシリジングするのが最も効果的だろうし、強烈な直射日光を問題視するなら色の薄い芝(日本は欧米に比べて蒼緑色のグリーンが好みだそうだ)や白っぽいトップ・ドレッシングを使う手もあるだろう。 しかし、夏の熱帯夜のように高エンタルピー状態が継続する状態に対処するには特別な配慮が必要だと思う。 人間界の不快指数は風や持続時間は考慮されておらず、食料や睡眠は潤沢にあるという前提だが、植物にとって水分補給は死活問題だからだ。

だから夏場の夜間散水は、日中に失われた水分補給が主目的で、降雨がなかった日の晩は必ず行うべきだと思う。 さらに芝土を含めた温度低下を狙うなら、散水ポンプに入る前の水温を下げる(冬は逆)事も可能性があるだろう。 一方、気化熱による環境温度低下効果は非常に大きく、次の組が使うまでの数分間に霧状の散水と送風機による乾燥ができれば、プレーヤーも涼しいので好評だと思う。 この方法はグリーン奥にスイッチボックスを新たに設置しなければならないし、現状の散水栓では数十秒の間欠散水は上手くできないだろうが、グリーン面に向かって散水する必要はない訳だから、別の方法も考えられるだろう。

さて、この夏研究を始めたクール(ヒート)チューブの紹介を最後にしよう。 これはグリーン基盤に敷設された排水管を利用し、そこに逆方向から風を流して冷風を得る試みで、有孔排水管がグリーン面の50p下に20m以上敷設されている場合、気温より3度以上低い空気が得られる見通しである。 ただ一般的なヘリボーンシステムの主管だけより枝管も使えれば冷却効果が高まるし、管径も排水容量から求まる数値より太い方が好ましいが、効果が立証されてから改造計画を立てる方が良いと思う。 冷却空気は既存排水管の点検口からフレキシブルパイプ等でグリーン傍まで引っ張ってきて、首ふり機能付き送風機でグリーン面に向けて吹き付ける計画だが、家庭用の台所換気扇でも毎時600uの風量があり、低温の気体は地面近くを舐めるように流れる性質があるので大丈夫だと思う。