株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2010年9月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第92回
 
水質について

先日、我が家の洗濯機では全く泡が立たない事を発見し、改めて欧州の生活用水の硬度の高さにビックリしたので、今回は水質の話題です。
水道水や飲料水の硬度表示には独国式(dH)と米国式(ppm又はmg/L)がある。 要は水に溶けたカルシウムやマグネシウムの量を数値化したもので、大雑把に言えば100ppm以下なら柔らかい水。200ppmなら硬い水だと思う。 日本の水道水では関東と九州四国は比較的硬度が高いと言われているが、欧州より圧倒的に柔らかく80以下。河川を流れる水は30程度だそうだ。 一方の欧州では、ロンドンの水道水で200超、大陸側では300内外の都市が多い。

一般に洗濯は泡が立たないと洗浄力はなく、硬水を使用する場合は予め炭酸塩等の硬水軟化剤で炭酸カルシウムを沈殿させ、洗剤を効果的に使う事が推奨されている。 硬度60と300の水では、適正洗剤量が3倍も違うからだ。 が、この方法も水道水を直接使うススギでは効果がなく、石鹸カスが衣類に付着して黄ばむし、薄汚く灰色に変色する事は避けられない。 本当は風呂の残り湯に軟化剤を入れ、その上澄みで洗濯するのが最も良いのだが、洋風呂は使用方法が違うから、洗濯用水の温度を上げて洗浄力を増すしか方法がないのだ。

逆にリンス又は柔軟剤は、硬水で洗濯すると繊維中の油分までが洗い流され、タオル等がゴアゴアになるのを防ぐ目的で開発された物で、普通洗剤とは逆に親水基が+に帯電する界面活性剤の一種だ。 そのため逆性石鹸と呼ばれるが、普通石鹸と混ぜると普通石鹸の洗浄効果も、逆性石鹸の殺菌や柔軟効果も弱まる。

ゴルフコースでもドライスポットに界面活性剤を施用していると思うが、この薬剤は前述の親水基が+にも−にも帯電しない非イオン界面活性剤を主成分にしたものだ。 水の硬度や酸性度の影響を受けにくいので、最近注目されている界面活性剤らしい。 欧州に住んでいると洗濯用の洗剤としても有益だと思う。 シャンプーや食器洗い機用の洗剤に多用されているそうだから、今度シャンプーを洗濯に利用してみようと思う。

もう一つ水質で大切なのはpH(最近はペーハーではなくピーエッチと読む)だろう。 水素イオン指数は中性が7で、値が小さくなれば酸性が強く、逆はアルカリ性が強い事はご存知だと思うが、リトマス試験紙は4.5から8.3までは変色しないから、詳細な数値計測はpH計が必要だ。 水素イオン指数は一般的には水溶液中の濃度を測るが、ガーデニングブームの昨今では格安の土壌pH計もあり、気温や雨量に加えて土壌水分やEC測定器と併用すればかなりの事が数値化できそうだ。

さて長々と水の硬度や酸性度について書いたのは、動物と植物では水に対する希求度が全く違うからだ。 我々哺乳類の場合は口から摂取した食物や水を、いったん胃という強酸性(pHは2以下)の器官に入れ、滅菌消毒してから消化する機能を獲得しているが、植物にはない。 更に、植物は動物と違って白血球やマイクロファージ等の免疫細胞を持っていない。 防御機能の第一は厚い細胞壁で異物をブロックし、第二の細胞内への病原体侵入にはサリチル酸等の植物ホルモンで抗菌タンパクを誘導し、最後は細胞死によって感染拡大を防ぐ事しかできないのだ。 つまり、環境ホルモンも含め水質には非常に敏感なのだ。

水遣りと土造りは植物栽培の基本だと思うが、この機会に改めて確認してほしい。