株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2010年10月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第93回
 
ゴルフ場管理とGPS

先日、国産初のGPS衛星『みちびき』の打ち上げと準天頂軌道への投入が成功した。 今後の運用次第ではゴルフ界にも大変革をもたらす可能性が大きいので、この機会に先端技術の恩恵を考えてみよう。

GPS(グローバル・ポジショニング・システム)は、複数の衛星からの電波を受信し、届いた時間差から逆算して受信位置を割り出す技術だが、衛星が当初軍事目的だったので、民間利用では十年前まで誤差データーが混入されており精度が100m程度だった。が、近年解除されて10mまで測位誤差が減少している。 また衛星だけでなく地上局の電波も利用して精度を上げる試みも実用化されている。

さて『みちびき』だが米国衛星と協調すれば高速移動体の測位誤差を1m以内に抑える事が期待され、もっと低速な除雪車や耕耘機等(当然芝刈り機も含まれる)の無人の自動運転が開発目標である。 ただ変形8の字の準天頂軌道なので、日本だけでなくアジア諸国やオーストラリア上空も巡るから、日本の天空には8時間しかおらず、24時間運用には今回の衛星も含めて3機が必要なのだ。

という訳で、先進的な土木工事現場では仮設GPS地上局(数百万円)を設置して、工作精度を数センチに収める技術は現在でも実績があるし、少なくとも十年以内には辛い芝刈り作業からグリーンキーパーは解放される事だろう。 ゴルフ場の芝草管理者の未来は、写真機が発明された後の肖像画家や、録音機が実用化した後の演奏者と同じ運命だが、絵描きや音楽家は絶滅してはいないから心配無用だ。

ここで、順調にいけば来年から『みちびき』が試験運用(日中の8時間運用だろう)されるとして、ゴルフ場での利用方法を考えてみたい。 が、その前に基本的にGPSは電波を受信するだけの受信機で、双方向通信またはデーター送信には別途に送信機器(携帯電話回線等)を使う必要がある事に注意が必要だ。 だが測位情報を保存できる超軽量製品もあり、回収方法があれば電池込みで12gだ。
第一に、ゴルファーの腰に小型GPSを付けプレー後に回収できれば、ラウンド中のゴルファーの軌跡が分るから、スコアーや飛距離の可視化ができ、上手くすればゴルフ場の新たな付加価値として発展する可能性がある。

次に、数百ラウンドのゴルファー軌跡を検証すれば、コース内での渋滞個所やハザードレイアウトの改善計画を立て易く、年齢や腕前や天候によっての差異も明確に分析できるに違いない。 芝草管理者の労力削減は最初に述べたが、最大の狙いは軌跡検証の結果を基にしたフェアウエーライン変更と、それに伴うコース難易度の自由度をキーパーが取り戻す事だ。

ただ、現在乗用カートを使う多くのコースでローカルルール化されている、ラウンド中のプレーヤーに対する距離目測支援は、小生にはゴルフの本質に馴染まないように感じるので懐疑的である。 飛距離自慢やグリーン周りの技術自慢と同じように、目標までの距離目測判断はゴルフプレーの楽しみとして残しておきたいと考えているのだ。

GPSを使った技術革新は、道草を食っていた日本ゴルフ界が、世界水準を凌駕できる稀有なチャンスだと思う。 米国(他国)の技術や資源に依存しながら技術立国と嘯いている時代は終わらせたい。 償還問題も2グリーンや常緑芝環境も未解決だが、今は未来に対して希望を持つ事が一番重要に思えるのだ。