株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2011年1月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第98回
 
最先端の問題と最先端ではない解決法
今回は日本が世界の最先端を走っている 、という話から始めよう。
他にも沢山あるとは思うが、日本は平均寿命、高齢者数、高齢化のスピードという三大項目において、近年世界中の注目を集めている。
元気なお年寄りが増えるのは喜ばしい事なのだが、総人口が減り、若者が少なくなった日本で、誰がゴルフ場を利用してくれるのだろうか?と、考えると少し不安になる。
現在でも総人口の四分の一は六五歳以上なのに四十年後は三分の一に増え、生産年齢と呼ばれる一五歳から六四歳までの人数は全人口の半分まで減るという予測もある。
四十年後の2050年頃とは、就職氷河期の再来と言われる今年に就職した若者が引退する頃で『彼らなら厳しい社会状況の中でもゴルフを続けてくれるだろう』などと楽観はできないように思う。
利用者減少によるゴルフ場の淘汰とか、生き残るための戦略などという話題にする心算はないのだが、ゴルフ場の若手スタッフが安心して精進できるように、心を砕いてあげたいと思う。

最近ニュースは大忙しで、ツイッターやフェースブックといったソーシャル・ネットワークにより、チュニジアやエジプトといった北アフリカや、中東諸国が政治的混乱に陥っている。
実は二十年前にも同じような現象が起きた事がある。
ソ連崩壊後に中東欧で起きた民衆蜂起は、当時の最新技術だった衛星放送の西側情報が引き金になったのだ。
今回の一連の動きは長期政権の歪是正という解釈もあるが、欧米と巧く折り合いをつけてきた政権が、欧米自身の創りだした文明の利器によって倒された訳だから複雑だ。
見方を変えれば、利権を狙って秩序正しく強引に行動を起こす欧米文化の限界が露呈し始めたようにも見えるのだ。
今世紀に入ってから地球規模の自然災害も多発し、何やら地獄の門が開き始めたような不穏な雰囲気が漂う。
米国がイラク戦争を起こした真の原因は、原油を米ドル立てからユーロ決済にしようとした為という意見もあるし、最近のユーロ不安を演出して潤っているのは輸出品目の多い欧州主要国の仏独だという事実を前にすると、搾取に憤る民衆の気持ちも理解できるような気がする。
だからキリスト教とイスラム教の戦いなどと単純に片付ける気にはなれないのだ。

それに比べて日本の少子高齢化の問題は、随分と平和的に解決する道筋が残っているように思う。
更にゴルフ場は『塞翁が馬』ではないが、最先端を狙わなかった事が逆に功を奏して、誰でもが気楽に楽しめる要素を沢山持っているのだ。
例えば、近年英国の古いコースが見直されている理由は、敷地が狭く距離も短いコースの方が女性やシニアにとって楽しめるからだ。
またアベレージゴルファーにとって挑戦しがいのあるコースとは、極端に難易度の高いトーナメント用のコースをフロントティーからプレーするより、適正な距離とハザードレイアウトの美しいコースをプレーする方が、満足度が高いという調査結果もある。
昨今は英国伝統の堅苦しい倶楽部のシキタリも嫌われるようで、フランクで庶民的な清潔感のあるクラブハウスが望まれているらしい。

個人的には日本にも世界屈指の難コースが数カ所あっても良いと思うが、プレーヤーの進歩に先んじて毎年改修するのは、技術的にも財政的にも非常に困難だ。