株式会社キャトルキャー ゴルフコース設計家 迫田耕(さこたこう)
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月刊 ゴルフ場セミナー 2011年4月号 発行:ゴルフダイジェスト社
連載コラム グローバル・アイ  第99回
 
蚊やハエの防除と無農薬栽培
ハンガリーには『春の疲れ』という言葉があり、冬が終わった安堵感からか春先に鬱っぽくなる人が多いようだ。
ブダペストの春はまだだが、日本ではゴルフシーズンも始まり、今年度の管理目標も定まった頃だろう。

 今回は四月号の話題として、シバツトガやスジキリヨトウの天敵線虫や土壌放線菌による防除方法を取り上げようと思っていた。
しかし、日本のゴルフコースでプレー中に不快な思いをする最たる昆虫は蚊やハエで、この衛生害虫の駆除方法は、相変わらず発生源の特定と薬剤散布が主流らしい。
誘引トラップや昨年イタリアで爆発的に流行したコウモリ巣箱などの新手法は、薬物汚染を引き起こさない代わりに確たる実績もないのだ。
実は欧州で蚊やハエが多いとツイートされたゴルフ場は、急激に評価を落とす。
害虫退避スプレーの使用以前にゴルフ場自体が不衛生だと見なされるからで、人を吸血する蚊は勿論だが、動植物の死骸や糞に群がるハエの摂食習性が問題視されるのだ。
最近では病原性大腸菌O157や鳥インフルエンザウイルスといった病原体もハエが媒介すると疑われているのだ。
つまり、欧州のグリーンキーパーは欧州人の趣向に合わせ害虫駆除にも気を使う。
欧州に十数年住む小生が、コースにハエが多いと感じたのはスペインのアフリカ対岸にあるコスタ・デル・ソルの一箇所だけだし、英国のゴルフガイドにもオーストラリアゴルフの難点はハエが多い事。と、書いてある程だ。
日本は生体資源が豊富で蚊やハエに限らず昆虫天国なのだろうが、慣れてない都会人や外国人にとっては相当過酷な状況だと思う。

 さて、昆虫や雑草を薬剤だけで防除する事は、安全性や環境問題の観点から望ましいとは言えないが、安全性への取り組みが最も進んでいる筈の食料品ではどこまで減農薬化されているのだろうか?
以下は稲作の例だが、読者はオーガニック(有機)栽培、無農薬栽培、減農薬栽培、無化学肥料栽培、減化学肥料栽培、減農薬無化学肥料栽培、無農薬減化学肥料栽培、減農薬減科学肥料栽培、それと特別栽培が明確に区別できるだろうか?
ゴルフ場でも過去二十年の間に農薬の使用量は半減したが、更なる減農薬化を模索する時期ではないかと思う。
農作物に関して減農薬栽培は付加価値として機能するが、ゴルフ場においては無農薬で頑張っても低品質と消費者に受け止められるのはどうしてだろう?
ゴルフ側の発信能力の問題もあるかもしれないが、一番はゴルファーが感じる品質基準を見誤った事が原因であるように思う。
たとえ無農薬が許認可の条件であったとしても、規制を制限と受け止めずに未来へのチャレンジ、言い換えれば新たなビジネスチャンスと受け止められなかった所に問題があるのだ。

近年は生物工学(バイオテクノロジー)による遺伝子組換えやクローン技術が脚光を浴びる一方で、天敵やフェロモンや有用微生物群などを利用する手法が再認識され、選択肢が広がったようだ。
口に入る食品では抵抗あるが、クローン技術で生産された芝を無農薬栽培する時代が来るかもしれないのだ。
そんな近未来のキーパーに求められる資質は何だろうか?
やることは違うけど、きっと百年前と同じ眼力だと思う。
春に疲れている暇はないのだ。